通関士試験の内容

通関士と通関士試験

日本においては、海外から貨物を輸入するときと海外へ貨物を輸出するときは、通関といって税関にその内容などを申告します。この通関の専門家として認められる国家資格が通関士であり、通関士になるために受けなければならない試験を通関士試験というのです。
 
実際は、通関士試験と実務とでは内容が違うことも多いので、試験に通っただけで実務で即戦力ということはなく、逆にまた実務ができるからといってそのまますぐ試験に通るわけではありません。
 
また、法律上通関は通関士でなければできないわけではなく、通関を行う業者(通関業者)の業務を行う営業所ごとに、必要な人数がいればよいとされています。
 
もっとも、通関士試験に通っていれば、手当がついたり、就職や人事の際に優遇されるということはありますし、国家資格をもっているなということで取引先や会社の人の信頼度も増します。
 
貿易に関する資格はいくつかありますが、日本において国家資格は通関士だけです。

主催者

財務省の地方組織である税関が主催者であり、合格証書も税関長の名で交付されます。出願その他の手続きは税関に対して行う必要があり、試験についての各種告知も税関のサイトなどで行われます。

しかし、問題の製作には税関は直接関わってはいないようなので、問題に関することは財務省関税局に問い合わせなければ答えてもらえません。

また、問い合わせたからといって必ず答えてくれるわけでもありません。

受験資格

通関士試験は物流、海運、通関などの限られた業界に勤めている方でないとなかなか耳にする機会のないマイナー試験であり、体験談などを発信している人も少ないので、情報があまり出回っていないのです。 そのため、実態がよくわからず受験をためらっている方もいらっしゃるかもしれません。 

しかし、受験資格に制限はなく、学歴、年齢、経歴、国籍等にかかわらず誰でも受けられることのできる開かれた試験です。

受験資格

3000円と安価な試験です。
 
ただし、受験会場が少なく、都市部か沿岸部に集中しているので、お住まいの地域によっては受験のために宿泊料や高額の交通費がかかることもあります。

試験日程、出願、受験地

通関士試験は年に1度だけ実施され、近年では10月上旬の日曜日に試験日が設定されています。
 
受験願書の提出は、7月下旬から8月上旬の間に行うことが必要です。出願は受験地を管轄する税関に対して行いますが、ご自分の住所とは無関係にお好きな受験地を選択することができます。
 
受験地は、北海道、新潟県、東京都、宮城県、神奈川県、静岡県、愛知県、大阪府、兵庫県、広島県、福岡県、熊本県、沖縄県の全国13か所です。
 
次回実施の試験についての告示が、毎年6月下旬から7月上旬にかけて税関のホームページなどで公開されるのが通例です。

試験科目と合格基準

試験は一日で三科目をこなし、それぞれ内容は
 
~午前~
1時間目  通関業法
2時間目  関税法、関税定率法その他関税に関する法律及び外国為替及び外国貿易法(同法第6章に係る部分に限る。)
 
~午後~
3時間目  通関書類の作成要領その他通関手続の実務
 
となっています。
 
その多くは法律科目であり単なる記憶科目ですが、3時間目の通関実務と呼ばれる科目では簡単な式の計算問題や特殊な事務処理問題が出題されます。
 
少し前までは、3時間目の通関実務だけが極端に難しく、1時間目の通関業法と2時間目の関税法等は大したことがないと言われていましたが、令和3年度(2021年)から流れが変わり、通関業法や関税法等が難化するパターンの出題もありました。
 
全てがマークシート式の試験であり、導き出した解答の番号や計算結果の数字をマークすることで解答します。
 
そして、合格基準点は試験前には公表されていないものの、近年では基本的に各科目でそれぞれ満点の60%以上の点数をとることで合格とされます。
 
難易度が高い年には、55%や50%まで合格ラインが引き下げられることもあります。以下は、近年における科目ごとの合格ラインです。
 
通関業法関税法等通関実務
第46回60%60%60%
第47回60%60%60%
第48回60%60%60%
第49回55%55%50%
第50回60%60%55%
第51回60%60%60%
第52回60%60%50%
第53回60%60%60%

科目免除

通関の実務経験がある方は、その経験が通算して5年以上であれば通関実務が免除され(1科目免除)、15年以上であれば通関実務と関税法などが免除されます(2科目免除)。
 
以前は科目免除を受ければ難関の通関実務が免除されるため難易度がかなり低くなると言われていましたが、令和3年(2021年)から、通関実務以外の科目を難化させるパターンも出現しているため、科目免除だからといって油断は禁物です。それなりの実力者でも、通関業法や関税法等で不合格になるケースが明らかに増えています。
 
免除の対象となる実務は限定されており、また、実際についていたことの証明書の提出も求められるため、厳密な要件は税関のホームページや受験案内などで必ずご確認ください。

合格発表

合格発表は11月であり、官報で合格者の氏名と受験番号が掲載されます。官報は直近のものはネットで無料公開されています。
また、発表日に合格者の受験番号は税関のサイトでも公開されますが、官報の方がやや早い時間に公開されますので、とにかくいち早く結果が知りたいという方は官報で知ることをおすすめします。
 
合格証書は後日郵送されてきます。 
合格証書には、受験地の税関長の名前が記されていて、受験地ごとに異なるデザインのものとなっています。

受験生の層

通関士試験では、願書に職業欄や勤務先または学校を書き込む欄が設けられています。

しかし、ここに書き込んだ情報が合格証書に書き込まれることはなく、受験する旨の連絡が勤務先や学校にいくことはないので、単に統計をとる目的で設けているのだと思われます。

もっとも、せっかく統計はとっているものの、このデータは公開されていないので、どんな職業の人がどのくらいの割合で受けているのかははっきり分かりません。

以前は30代から50代くらいの男性が比較的多めな試験でしたが、受験生の方々から受験会場での様子を聞くと、ここ数年で急激に10代20代女性の割合が増えているそうです。私が関わっている受験生を見ていても、やはり毎年増えているように思えます。特に学生さんは女性割合が高いように感じます。

また、通関士試験は世間一般にあまり存在を知られていないこともあり、貿易関係の仕事をしている方や、その業界を目指す方の割合がとても多いです。

通関士になりたい方や通関実務に就きたい方はもちろんですが、そうでなかったとしても貿易業界では通関士資格を持っていることで資格手当がついたり、社内評価が上がったりすることもよくあるので、受験動機となるのです。