通関業の許可に基づく地位の承継

こんばんは🍀

通関業法を勉強された方は、通関業の許可に基づく地位の承継(通関業法11条の2)についても、当然ご存知かと思います。

試験対策としては特に難しいことのない規定です。しかし、法律初学者や通関、貿易関係者には馴染みの薄い法律用語がいくらか混ざっていることや、テキストなどでその用語についての説明があまりされていないことなどから、混乱している方がいらっしゃいました。そこで、詳しく説明してみますね。

このブログでは、個別の規定に着目した説明はしない、というのが基本理念です。そういうのは、個々が使用している教材に必要最低限の説明が書いてあるので、あえてここでする意味もないと考えているからです。同じ事が書いてあるのであれば、よそ見して確認せず、自分が使用する教材を復習すればいいだけです。

けれども、今回わざわざこういう記事を作るのは、余談を交えて掘り下げた話を聴いた方が理解しやすい、覚えやすい、と考える方に、今後の勉強方針を見つめ直してほしいと思ったからです。テキストや問題集を一人で黙々とやってもつまらないよ、勉強が続かないよ、と思っている方は、余談を交えてくれるような講義を視聴して勉強する道も考えてみてください。

通関士試験の対策としては、通関、貿易の実務的な観点から説明される先生はたくさんいらっしゃるので、今回は少し視点を変えて民法、会社法の視点から説明します。通関士試験の範囲には意外とこれらの法律が絡む規定が多いからです。

相続と合併

通関業の許可に基づく地位を承継するとき、相続の場合は、被相続人の死亡後60日以内に財務大臣に承認申請することを要し(通関業法11条の2第1項2項)、法人の合併の場合は、あらかじめ財務大臣の承認を要します(同条4項)。

では、なぜ相続と合併の場合で扱いが異なるのでしょうか?

そもそも、相続や合併って、なんでしょうか?

『相続』

相続とは、自然人(実在する人間)が死亡したとき、その自然人(被相続人)について発生していた法的な権利義務関係のすべてを、一定範囲の人(相続人)に受け継がせる制度です(民法896条本文)。

相続は、被相続人が死亡したという事実によってのみ発生します(同882条)。

簡単に言うと、人が亡くなれば、亡くなった人の財産が、まるっと他の人のものになるよという制度です。

『合併』

合併とは、法人(自然人以外で法律上「人」と扱われる存在)について発生している法的な権利義務関係のすべてを、他の法人に受け継がせる制度です。

法人には何種類かありますが、今回は通関業の許可を受けた法人についてのお話ですから、代表的な株式会社を例にして説明します。会社は目に見える存在ではなく、観念的な存在ではありますが、自然人と同様、法的な権利を有し義務を負うことができます。たとえば、あなたが、会社で使用する物品を買った場合、その代金を会社に請求しますよね。なぜ請求できるかというと、代金の支払い義務がその会社に生じているからです。しかし、観念的な存在である会社は、現実に買い物をしてお金を支払う行為ができませんよね。そのため、あなたが代わりに支払い、立て替えたお金を会社に請求しているということになります。

さて、会社の合併には、吸収合併と呼ばれるもの(会社法2条27号)と、新設合併と呼ばれるもの(同条28号)がありますが、いずれにせよ、権利義務を受け継がせる側の会社は法律上解散してしまい、受け継ぐ側の会社だけが残ることになります(471条4号)。

合併は、権利義務を受け継がせる側の会社と、受け継ぐ側の会社とで契約を結ぶことによって行われます(748条)。

簡単に言うと、合併契約をすれば、片方の会社が消えて、その財産がまるっと他の会社のものになるよという制度です。

相続と合併の相違点

そして、ここまで読んでお気づきになられたと思いますが、相続と合併って、似ていませんか?

相続は自然人について発生し、合併は会社について行われます。が、どちらも法律的には「人」と扱われる存在の財産が、まるっと他の「人」に移り、移した「人」はいなくなってしまう制度なのです。

このように、類似の制度であるから、どちらの場合も、通関業の許可に基づく地位の承継については、同じ条文内(通関業法11条の2)で規定されているのです。

しかし、相続の場合は、人の死亡によって発生します。でも、人がいつ亡くなるかなんて必ずしも分かるとは限らないので、相続の発生を予期することは難しいですよね。本人の意思で亡くなるわけではないことも多いのですから。だとすれば、亡くなる前に前もって承認申請をしろというのは、ちょっと酷です。

そのため、相続の発生後、すなわち被相続人が亡くなった後の承認申請を認めているのだと考えられます。

一方、合併の場合は、会社同士の契約で行われます。そして、契約は両当事者の意思の合致で成立するため、両者の意思で合併するかどうかを決められます。とすれば、当事者にとって、合併することを予期することは可能なのですから、前もって承認申請をさせたって誰も不都合はありません。むしろ、承認するかどうかを前もって審査してもらった方が、合併当事者にとって好都合なのです。合併した後になって、やっぱり承認しませんよと言われてしまったりすると、残った会社は通関業をできなくなりますよね。承認されないことが先に分かってた方が、権利関係が複雑にならず合併契約を白紙に戻しやすくなります。

したがって、あらかじめ承認申請し、承認を得ることが要求されていると考えられます。

分割と事業譲渡

さて、通関業法11条の2第4項には、合併以外にも、あらかじめ承認申請を要求する場合が規定されています。

それは、「分割(通関業を承継させるものに限る。)」と「通関業を譲り渡した場合」です。

これらは、一体どういうもので、なぜ、合併同様にあらかじめの承認申請を要求されているのでしょうか?

まず、ここでいう「分割」とは、法的に言えば会社分割と呼ばれるものであり、会社が事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、他の会社に受け継がせるものです(会社法2条29号30号)。

合併と似た制度であり、こちらも契約によって行われますが、権利義務の全部を受け継がせることしかできない合併に対して、会社分割は、権利義務の一部だけを受け継がせることもできます。また、合併と異なり、受け継がせる側の会社も解散せず存続します。

「通関業を譲り渡した場合」とは、典型的に考えられるのが事業譲渡と呼ばれるものであり、これも会社分割と似ており、当事者間の契約によって事業の全部や(重要な)一部を他の人に受け継がせる制度です(467条1号2号)。「事業」の捉え方には諸説ありますが、ざっくり言えば会社分割でいうところの「事業に関して有する権利義務」といくらか似たようなものだと捉えてください。また、事業を受け継がせる側の会社も存続するので、この点でも類似します。

会社分割や事業譲渡は、中身の事業が抜け、受け継がせる会社が抜け殻のように残ります。そのため、「抜殻方式(ぬけがらほうしき、ばっかくほうしき)」なんていう俗称で呼ばれることもあり、株式投資や企業買収などに関わっている方には馴染みが深いかもしれません。持株会社を作ったり、抜け道的に不採算部門の切り離しに使われたりしていた制度です。

さて、合併と会社分割、事業譲渡とでは、受け継がせる側の会社が存続するという違いがありますが、事業に関して有する権利義務関係などを、相手側の会社がまとめて受け継ぐという点では類似します。また、合併同様、両当事者の契約によって行われます。

したがって、合併と同様に、あらかじめの承認申請を要求されたものと考えられます。

制度趣旨を知ると覚えやすい

同じ条文内に規定されている制度で、似ているけれどもどこか扱いが異なるというとき、そこには必ず何らかの合理的な理由が存在します。全く同じ扱いでよければ、わざわざ扱いを変えるなどという無意味なことはしません。

このように、規定の相違点をひとつひとつ丁寧に検討し、そこから導かれる制度趣旨を知ることで、混乱しやすい似て非なる制度を覚えやすくなります。

もっとも、通関士試験ではそんな深いことは聞かれません。合併が何かとか、分割や事業譲渡とどういう違いがあるかなどは、知る必要がありません。

そんなめんどくさいこと話してくれなくていいから、直接得点につながるところだけ分かればいいよ、というスタンスの方が受かるのが早いというのはよくある事です。

それでもなお、こういった余談があった方がいいなと考える方は、無理に独学や無味乾燥な講義にしがみつかずに、余談をたっぷりしてくれる講義を視聴することをおすすめします。

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